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うつ病の初期症状を見逃すな!うつになりやすい人の特徴や深刻化の理由

自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術

下園 壮太

『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』(朝日新書)は、陸上自衛隊初の心理幹部として数多くのカウンセリングを経験してきた著者による疲労コントロールの方法を解説した本。

 

 

あなたの身の回りにもいるのではないだろうか?

休めと言っても休まずにムリを重ねる人、いつもイライラしている人、不安で仕方がないと言う人、パフォーマンスにムラのある人。そういった行動や感情のメカニズムと防ぎ方・対処法をわかりやすく教えてくれる一冊だ。

 

陸上自衛隊ならではの情報収集の考え方・ミーティングの開き方やダメージコントロール手法などを通じて捉えてみれば、組織論として読むこともできるだろう。さらに、近年の新型うつと呼ばれるものが、従来型とどこが異なりどこが変わっていないのかを丁寧に説明おり、新型うつに陥る前の対策も必見だ。

 

拭えない不安はどこからやってくるのか?

現代の我々は、いつもどこか疲れており拭えない不安を抱えている。24時間多種多様な情報に刺激されっぱなしだ。それはスマホやSNSなどを通した「いつでも繋がっている状態」にあるとき顕著に現れる。湯水のように流れ出る情報は、一見するとタダで手に入れられているように思えるが、情報を得るのと引き換えにあるものを消費している。

 

それは、自分たちの感情のエネルギーだ。

 

こうして我々は感情の過剰発動、著者の言う「感情のムダ遣い」をすることで些細なことで不安になり、どうでもいい人に対して怒りが収まらない状態になっている。「感情のムダ遣い」によって疲労していくことを著者は「感情疲労」と呼んでいるが、それを防ぐ方法もちゃんと用意されているので是非一読してほしい。

 

ムリの進行は3段階で進む

ここで、本書で最もインパクトがあったテーマをご紹介しよう。

 

ムリを重ねていくと体や人間関係を壊したり、普段とは違う行動をしてしまうことがあるが、体や人間関係、行動に表れなかったムリは心に表れる。そして心に表れた結果がうつ状態ということになる。

 

ムリの進行は3段階で進む。

 

第1段階は普通の過労だ。眠れば回復するかもしれないが、疲労は確実に蓄積している。第1段階が長引くと「別人化が始まる」(第2段階)。「別人化」とは恐ろしい言い方だが、この第3段階は思考や感情が「別人」になる紛れもない病気だ。

 

とてもじゃないが普通の発想はできない。仕事が進まないのは「疲れているから」なのだが「疲れているから休まなければ」とは考えない。仕事が進まないのは「自分の我慢が足りないから」で「疲れていることを知られたら見捨てられる」と考えてしまう。元気な時とは違う方向に思考が勝手に動き出し、自分ではコントロールできない状態で終いには「死にたくなる」という考えが去来する。

 

今このような苦境に陥っているのはムリをしたせいなのだ。だから元に戻るためには、努力することではなく休むことが必要なのだ。第3段階とは、これ以上の努力を要求してはいけないレベルなのだ。

 

これは、別人化している本人や周囲の人が忘れてはいけないと著者が強く主張する重要なポイントである。ムリの第3段階まで進みやすい人の特徴や深刻化の理由、それを修正するトレーニングについては本書に詳しいので参考になるだろう。

 

かばんに入れておきたい常用薬

この本はまるで処方箋だ。心や体に疲れを感じたとき、どんな対処を取ればいいかが詳しく書いてある。

 

「ナナサンバランス」の用法用量を守って、少しずつでも取り入れていきたい。特に、巷に溢れる成功論やリーダーシップ論に食傷気味ならば効果はてきめんだろう。かばんに入れておきたい常用薬のような新書となっている。

 

著者の下園壮太氏は、陸上自衛隊のストレスコントロール教官を務めた経歴を持つ心理カウンセラーだ。本書の他に『うつからの脱出』『学校では絶対に教えてくれない 自分のこころのトリセツ』など多数の著作がある。著者の豊富な経験から、薬に頼らずうつを改善する方法を提唱しつつ、医師や看護師にメンタルヘルスやカウンセリングなどの教育も行っている。

 

最近なんだかイライラしている。何をやってもうまくいかない。理由のない不安や怒りの感情をどこに向ければいいのかわからない。そんな経験があるならば、一度本書に目を通してみてはいかがだろう。「今は忙しいけど仕方がない。みんなもそうだから」とがんばってしまっていたら、それは赤に変わる直前の黄色信号だ。「自分の限界をわかっているから大丈夫」と思っている人ほど危ないという。

 

また、部下を持つリーダーの立場にいる人へもおすすめだ。部下の心の疲れが表面化する前にキャッチする術を本書は教えてくれる。第1章の「組織のムリを防ぐために、上司がするべきこと」だけでも読めば「あの人最近変わったね」「この会社の雰囲気はいいよね」と言われるようになるかもしれない。

 


人生は長期戦であり、変えられないものは無理に変えようとしないほうが良い。自分の能力には限界があり、自分は疲労すること感情に大きく影響をうけることをまず受け入れよう、と著者は説く。受け入れた先のステップは本書でご確認いただくことにして、毎日を軽やかに生きるヒントを見つけられることを願ってやまない。