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好きな本を好きなだけ。

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チョコレートのカロリーを気にするなら、チョコレートができるまでを知るとダイエットになるかもしれない。

チョコレートの真実

キャロル・オフ

今回ご紹介するのは、女性ジャーナリストが巨大カカオ産業の裏側を暴くノンフィクション『チョコレートの真実』だ。チョコレート企業・カカオ農園労働者・政府関係者へのインタビューをもとに全12章で構成されている。「神々の食べ物」であるカカオが、おなじみの「あまくておいしいチョコレート」になるまでの歴史がつづられる濃厚な一冊。

 チョコレート=バレンタインデーはマーケティングの賜物

前半は、コロンブスがカカオに出会い、スペイン・ヨーロッパ・アメリカ、そして世界へと広まっていくなか、バンホーテンのココア・ハーシーズのキスチョコ・M&M'Sの「お口で溶けて、手で溶けない」が生まれるまでの流れがわかる。チョコレートをバレンタインデーと結びつけるマーケティングが成功した背景にも注目だ。

 

後半は、世界一のカカオ輸出国コートジボワールの成り立ちが書かれている。カカオ農園で働く子どもたちが、どのようにそこへ来て、どのような環境で日々暮らしているかを知ることになるだろう。農園で働く彼らは、自分たちが収穫したカカオ豆がどうなるのか、その行く末を知らない。そもそもチョコレートを食べたことがないのだ。

 

暴かれるチョコレートの真実

真実が次から次へと暴かれる。途上国の実体を操作し、自分たちの利益のための都合のよい調査を行う、奴隷制とは無関係だと強調するチョコレート企業。密輸・告発・汚職・人権侵害・人身売買組織・殺人予告などのキーワードが目白押しだ。

 

そして彼女は、コートジボワールの農園地帯の小さな村に踏み込んだ。そこに住む「合法的な」カカオ共同組合のトップX氏へのインタビューのためだ。生命の安全のため、匿名を条件にX氏は語り始める。自宅の庭にも関わらずX氏は声をひそめ、額に汗を浮かべ、辺りの様子をうかがいながら、慎重に答える。それが何を物語っているか、想像するのは難しくないだろう。

 

取材を続けるなかで、著者はあるジャーナリストと知り合う。カカオ管理機構の裏側を誰よりもよく知るフランス国籍のジャーナリスト、通称GAKだ。彼はカカオ業界を牛耳る者たちを追い、カカオ取引の裏側を公にする。彼らにとって都合の悪い情報を暴露したのだ。彼が追いかけていた人物には、経済財政大臣・国立投資銀行総裁もいたという。

 

そして事件は起きる

ある日、彼はいつも通りに仕事に行ったきり、そのまま消息を絶ってしまう。姿を消してから2日後、路上にて身元不明の白人の死体が発見された。依然としてGAKは行方不明。「彼は知りすぎていた」と、あるチョコレート企業の役員の一人は驚くことなく言ったという。カカオ農園の真実を語ろうとせず、情報が表に出ることを恐れる関係者。まるでサスペンス・フィクションでも読んでいるかのような錯覚に陥った。

 

そこまで書いてしまっていいのかとハラハラ・ドキドキしながら読んでしまうのだが、心配はご無用。この本の著者キャロル・オフは、カナダの放送局CBCでラジオ・テレビに出演するジャーナリストなのだ。大学時代の学生新聞をきっかけにジャーナリズムの世界に入り、本書の他に軍事に関する本を何冊か出している。

 

真っ赤に熟れたカカオの実が目を引くカバーをめくると、決して甘くはないだろうと直感的にわかるチョコレート色と、原題『BITTER CHOCOLATE』がミルクのような白いフォントで飛び込んでくる。読後感は甘いものではないかもしれないが、チョコレートが大好きな方にこそ、読んでもらいたい一冊だ。

 


 チョコレートの包み紙を開くように本書を読んでみれば、そこには巨大産業の裏側と隠されて見えていなかった中身があらわになるだろう。チョコレート農園で働く子どもたちへのインタビューや歴史が示す事実こそが、強い説得力となって脳内を刺激してくるのだ。

著者も言う通り、「本書のせいで、今までのようにチョコレートを楽しむことができなくなるかもしれない」と承知の上で、本書を開いてみてはいかがだろう。

『誰がカカオを収穫しているのか、その人たちがどんな生活をしているのか、私の国ではほとんど誰も知らないのよ』(by 著者キャロル・オフ)