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宗教団体が拡大していくメカニズム、不協和理論とは何か?

予言がはずれるとき―この世の破滅を予知した現代のある集団を解明する

L.フェスティンガー S.シャクター H.W.リーケン

 

本書『予言がはずれるとき』は「認知的不協和の理論(不協和理論)」の検証を試みた社会心理学の古典(原著の出版は1956年)である。

 

3人の著者たち自らがアメリカのある宗教団体に信者として潜入し、数ヶ月間にわたってその活動を観察。実際にリーダーの「予言ははずれた」にもかかわらず、布教活動はより活発になり、信者も増えて大きな教団となっていく現象について詳しく記されている。

この宗教団体が信じていた世界観

ここで、この宗教団体が信じていた世界観について簡潔にまとめてみよう。

 

教団のリーダーとなる女性はある日、キリストと同じ人物だという者からお告げを受ける。彼女が霊界から受け取るメッセージによれば、1954年12月20日に大洪水が起き、地上は一度リセットされるという。

 

この団体の崇拝の対象は霊界の守護霊たちであり、その守護霊たちは現在太陽系の別の惑星にいるとされている。彼らの使者たちがUFOに乗ってやってきて、選ばれた数の人間のみが搭乗を許され他の惑星へ運ばれ救われるというものであった。

 

地上が滅びる前に救世主が現れ、選ばれた民のみが救済されるというキリスト教の伝統をベースに、オカルト、UFO、宇宙人、守護天使、ヒーリング、チャネリング、スピリチュアリズム、終末思想と、まるっとそのままカウンター・カルチャー/ニューエイジの「はしり」ともいえるわけだが、実に多くの信者が集まった。

 

この大洪水の予言だけでなく、リーダーの他の予言もことごとく「はずれた」にもかかわらず、リーダーの威厳は地に落ちるどころか逆に教団の勢力は拡大し、信者は増大していったというから驚きだ。

 

そしてこの現象を裏付ける理論こそが、不協和理論というわけだ。

 

不協和理論とは?

不協和理論では、自身の行動や信念における一貫性が問題になる。

 

つまり、ひとつの認知要素(A)ともう一方の認知要素(B)が心理的に矛盾するとき、それらは互いに不協和であるとされ、不快な状態にある。そのような不快な状態は耐えられないため、より調和のとれた協和な状態に近づけようとする「不協和低減」への動機づけがおこなわれるというものだ。

 

よく持ち出される例でもって簡単に説明してみよう。

 

ある人が「タバコを吸っている」(A)が、その人は「タバコは有害であることも知っている」(B)場合、AとBの間には一貫性がないため、心理的な矛盾が生じている。それならばタバコをやめてしまうことが不協和を低減する最も簡単な方法だが、タバコをどうしてもやめられない。そこでBの方をなんとかして変えようとする。

 

例えば「タバコのせいでガンになり死んでしまうかもしれないが、人は誰でも最後は死ぬ」とか「タバコを吸っていても長生きしている人はいる」などと考えたりして、不協和を減らそうとするのだ。

 

宗教団体に生じる不協和理論

では、この宗教団体の場合はどうだったのだろう。

 

この団体のメンバーは「教団の教えは絶対で、予言は必ず成就するという確固たる信念」が「予言ははずれたという客観的な事実」と矛盾し、心理的に不快で不協和な状態にある。だから不協和を低減しなければならない。

 

しかしどちらを変えることもむずかしい。なぜなら「すでに教団に財産をつぎ込んだり仕事を放棄したりするほどに強い信念」となっているため、変えることはむずかしく、さらに「客観的な事実の方も否定することができない」のだ。

 

だが、むしろ予言がはずれてからの方が布教活動は活発化し、教団は大きくなっている。

 

この逆説的な現象のメカニズムがここにある。つまり、同じ信念を抱く人をさらに見つけ出し(布教活動の活発化)、自分の信念と協和的な要素をより多く得る(信者の増大)ことで、不協和の大きさよりも十分大きな協和を得る。

 

そして信者が多くなるほど、予言の失敗を正当化する理由を探し(不協和の低減)、まだ予言は成就されていないという「客観的現実」をみんなで見ることになるのである。