脳が冴える15の習慣~記億・集中・思考力を高める
築山節 NHK出版
脳の危機は世代を選ばない
本著のタイトルだけを読むと、たとえば定年退職後の方が認知症の予防代わりに読む本、といったイメージを持つ方もおられるかもしれない。
また一時期話題になった「脳トレ」などを連想する方も少なくないだろう。
しかしこの本の内容は、高齢者の方に限らず、むしろ今バリバリ仕事をしている世代の方にこそ読んでいただきたいと思われるものである。
さらに、ゲーム機などで行う「脳トレ」を紹介しているのではなく、毎日の生活習慣の改善こそが、脳の働きを改善すると説いており、一読すればさっそく翌日から実行できるポイントが詰まっている。
またこれらの生活習慣の改善により、部屋がキレイになったり、人間関係が改善したり、中には恋人をゲットしたりとうれしい変化が紹介されている。
特に、毎日がんばっているのになぜかうまくいっていないと感じる人は、一度読んでみるとよいかもしれない。
脳の機能を改善させるためには「基本が大切」
筆者は、衰えてしまった脳の機能を改善させるために必要なのは、「脳にとって良い習慣を取り入れること」であると説いている。
つまりそれは「木を育てるような」ものであり、本来豊かに葉を茂らせることができる木であっても、環境と育て方が悪ければ葉が落ちてしまう。
同様に、本来素晴らしい能力を持っている脳であっても、脳にとってよい生活習慣が身についていなければ、機能が衰えたり、うまく使えなくなったりしてしまうのである。
そのような場合、何か特殊な方法で一時的に機能を回復させることができたとしても、長く続かない。環境と育て方、つまり基本的な生活習慣を変えないかぎりは、時間がたつと元に戻ってしまうというのである。
脳外科医として、日々患者と接している筆者は本書のなかで「時間的にも経済的にも負担にならない」習慣を紹介してくれている。
早起きは三文の徳。朝の習慣が脳をつくる。
長年会社勤めをしていた人が退職して家にいるようになると、次第に記憶力や会話能力が衰えてきてしまう…。
このような人に対し、筆者は「生活のリズムを失うことはボケの入り口である」と警告している。
そしてそれは高齢者だけでなく、仕事を持って働いている人にも同じことがいえるのである。
出社ギリギリの時間に起き、ほとんど歩かずに出社し、パソコンに向かって仕事をする人には、午前中に軽い散歩や部屋の片づけなどを実行することを勧めている。
なぜならば、手・足・口を動かすことは、脳の運動系と呼ばれる機能を活性化させることであり、これらをしっかりと動かしておくことが、脳の準備体操となり、仕事に必要な思考系の活動をもスムーズにしてくれるというのである。
これらの習慣は、運動不足の解消や部屋の掃除にもつながり一石二鳥である。
相手の立場に立って話すことで得られるものとは
筆者は、脳機能を高める上で非常に有効なのが「表現力豊かに話すこと」であると説いている。
物事が持つ様々な側面を意識して、質問を想定したりキーワードを並べたりして表現していく。このような過程が脳にとって非常によいのだという。
これに加えて必要なことが「相手の立場に立って」話すことである。
脳の前頭葉の力が落ちると、様々な変化に対応することが辛くなる。すると「自分の話が伝わらないのは上司が悪い」などと、悪い意味で頑固になってしまいがちだという。
自分の思考パターンを離れて、相手の身に立って考えることこそが、脳にゆさぶりをかけ、前頭葉を鍛える有効な訓練になるのだという。
また、そうすることによって、人間関係もおのずとよくなるのではないだろうか。
まずは人生を楽しむことから
最近のビジネスにおいて求められているのが、「ひらめき、想像力、クリエイティブな才能」といったものである。
これらは、「ひらめく力」といった特殊な能力なのではない。情報を取捨選択し、脳の中で整理し、思考を組み立て、他人に分かりやすく伝えると言ったいわば「脳の総合力」が「ひらめく力」なのである。
そのため、これさえすれば、簡単にひらめく人間になれるといった特効薬は存在しない。そしてそういった能力は仕事だけを一生懸命やっていても磨かれるものではないのだという。
クリエイティブな能力を高めるために必要なのは、何にでも興味を持つ姿勢、人生を積極的に楽しもうとする姿勢なのである。
さらに疲れたときには十分な睡眠を取ることも必要であるという。
仕事熱心もいいが、それだけに滅私奉公するのではなく、自分で興味や楽しみを見つけていくことが、脳の働きを、そして人生をも豊かにする道ではないだろうか。