危険な話
広瀬 隆
当時のソ連で1986年に起こったチェルノブイリ原子力発電所の爆発事故について「実際に何が起こったか」「何故そんなことが起こったのか」「私たちはどうすればよいのか」などが詳しく語られている。
残念ながら、約30年後に同様の事故が日本でも起こってしまう。日本はチェルノブイリの教訓を生かしているのか?原子力発電所は本当に必要なのか?…そんな議論を自身で考えるための土台となる一冊である。
チェルノブイリで実際に何が起こったのか
事故当時、ソ連は国民のパニック等を恐れて当初は事故を公表していない。事故1~2日後の隣国からの申し立て(自国の観測から放射線が観測されたため)によって「やむなく認めた」という形である。
そういった状況から察しても「多くの事実が隠されている」と考えざるを得ない。日本でも雨水の中から放射線が観測されている。
その事実からだけでも「現場では大変な事が起こっている」ということが科学的に結論できるのだと著者は語る。
端的に書くと…
「日本にまで放射能を含んだ粒子が飛んでくる」
⇒「その粒子は偏西風に乗ってきたはずである」
⇒「偏西風に乗るためには粒子が3000~5000mほど上空まで舞い上がらなければならない」
⇒「となれば原子力級の爆発によるエネルギーによる原因しか考えられない」
「放射能を含んだ粒子が日本に飛んできた」という事実だけで、ある一定以上の大爆発が起こったことが推測され、その爆発によって、どの程度の放射能が放出されるのか…そこから考えるだけでも、当時発表された放射能の放出量は「明らかに過小評価」されているのだという。
半永久的に続く放射能汚染の影響
放射能汚染は一時的なものではない。放射能が減っていく過程で「半減期」と呼ばれる用語があるが「半減期30年~50年」という放射能物質は多い。
中には「半減期300年」などというものもある。ここで注意してほしいのは「半減期」とは「半分になる期間」である。「消滅する」訳ではないのである。
それを聞いただけでも途方もない印象だが、さらに「食物連鎖」に関連する話はもっと恐ろしい。
「爆発して放出された放射能粒子は、やがて地上に降り注ぐ」
⇒「降り注いだ粒子は草木を覆い、土に交じる(草木が汚染されるということ)」
⇒「汚染された草木を動物が食べる、汚染された土の養分を吸取って草木が育つ」
⇒「動物や植物がが汚染される、それを食べるのは人間…」
直接放射能を浴びる危険に加えて、食物などから身体の内部から汚染される…という現実もあるのだ。そして、「内部汚染」はすぐに始まる訳ではない…これからである。
これから徐々に長く継続するのである。私たちが、私たちの子供たちや孫たちが汚染の被害に遭遇するのである。
原子力発電は本当に必要か
冒頭でも書いたが、チェルノブイリ事故の約30年後に日本でも同様の事故が起きてしまった。「汚染量はチェルノブイリを上回る」とさえ言われている。
この本では「日本の電力事情」を解説した上で「原子力発電が必要か否か」が議論されている。日本では「火力発電」を主力として「水力発電」「原子力発電」が準主力となっている。「風力」や「地熱」といった「クリーン発電」はまだまだ少量。
火力発電は常に「大気汚染」という問題がついて回る。「オゾン層破壊」や「地球温暖化」の大きな原因は「火力発電」である。
「水力」「風力」「地熱」といった発電方法は広い土地が必要であるため、国土の狭い日本では現実的ではないという。
このまま火力発電主力の生活を続ければ、放射能汚染はなくとも地球規模での大汚染は免れない。一方、原子力発電は大気汚染がない。
しかし、しかしである…事故が起きれば取り返しがつかない大惨事となる…この辺をどう考えるか…。
昨今、「原発は必要か」という議論が取り沙汰されているが「電力について私たちはどんな選択をすべきか」原発の是非を考えるための土台としてこの本をオススメする。